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知り合いの話。
とある山奥に、
不知火淵と呼ばれる水場がある。
彼の親戚で杣人をしていた者がいて、
ある夜この辺に泊まったのだという。
真夜中、立て続けに水音が聞こえてきて目が覚めた。
淵を見やると、
沢山の白い手が水の中から伸び上がってきている。
手の主は彼を見つけたという訳ではないらしく、
手近の木などを触りまくっている。
音を立てないよう注意し、
そこから立ち去ったそうだ。
「あそこにゃ得体の知れないのが仰山居るぞ」
杣人が里に帰り着いてボヤいていると、
一番の年寄りが教えてくれた。
「お前が見たのは不知火といってな、
淵の名前の由来になった化け物だ。
大勢いるように見えはするが、実はあれで一体だけなんだと。
淵の底に白くて丸い、でっかい卵みたいな身体が沈んでいて、
そこから何本も白い手が伸び出しているってよ。
どうやらアレは母親らしくてな。
目がないモンだから手探りで、
はぐれた子供を探してるって話だ」
「……という話を聞かされたんだけど、
そんな化け物、聞いたこと無いよなぁ。
各地の伝承を探せば、
まだ知られていない妖怪って結構居るのかもしれん」
彼は水木しげるの本を片手に、
真面目な顔でそう言っていた。
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