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山仲間の話。
風の強い夜、
山で野宿していると、
どこからか悲鳴が聞こえた。
外に出ると風音に紛れて微かに、
しかし確かに苦しそうな人の声がしている。
声の主を捜そうとして耳を澄ましてみたが、
どうも様子がおかしい。
まるで風に乗っているかのように、
悲鳴は谷間の空中をぐるぐる飛び回っている。
一緒に宿していた杣人が言う。
「聞くな、どうしようも出来ん。
あれは昔、鬼隠しにあった者が、
鬼にゆっくり喰われてるんだ。
十年ほど掛けてゆっくり喰われるらしい。
里じゃ十年殺しって呼んで恐れてる」
「今は大丈夫。
あの悲鳴が聞こえている間は、
新しく人が獲られることはない」
杣人は最後にそう言って口を閉ざす。
悲鳴はゆっくりと山奥へ去っていき、
じきに聞こえなくなったという。
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