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大家さんの話。
以前に住んでいたマンションの大家さんは、
御主人が亡くなったのを機に田舎の土地を処分し、
都会にマンションを建てて、息子夫婦と同居した。
老女は何かと話かけてくれ、
俺も機会があれば田舎の怖い話を聞こうという下心もあり、
愛想良く話していた。
ある時、
老女が思い詰めた顔で
「神さんが怒っとる…」
と呟いた。
聞くと、
売った山の一つが開かれ、
屎尿処理場ができたと言う。
「○○の命を貰うと言われてな…」
○○ちゃんは、
幼稚園に通う彼女の孫である。
「でも…権利も移して、
開発にも全く関わってないんじゃ…」
そんな俺の言葉を遮るように老女が言ったのは、
その山の神は真っ白い大きな体をした利口な鹿をもっていて、
こんな都会に出て来ても、
老女のもとに辿りつき、
彼女の部屋の窓から顔を出したという。
俺は呆気にとられ、
話をしているマンションの前から、
隣の大きな一戸建てを見つめた。
鹿は人の言葉で、
山を汚したことを神が怒り、
代償に孫を貰うとを告げたという。
老女は泣いて許しを乞い、
孫の代わりに自分を連れて行くよう
神様に掛け合ってくれと頼んだそうだ。
鹿は何度も首を横に振ったが、
老女の熱心さに折れたのか、
3日待てと言い残し消えたという。
突拍子もない話だけに、
失礼ながら痴呆も疑ったが、
真剣な眼差しと内容を前には神妙に聞くしかなかった。
「祟るのは筋違い…」
再び俺が言いかけた時に、
老女が言った言葉は今も忘れられない。
「神さんは、
自分を知るもんや奉ったもんに祟る」
偶然にも老女は3日後に亡くなった。
「明け方に鹿が来て、
私で構わんと言った」
「アンタにしか話してないから、
挨拶しとかなきゃならと思って」
「色々ありがとね」
嬉々として話した数時間後の死だった。
あんな笑顔で死ぬ前の挨拶をされたのは、
後にも先にも一度だけだ。
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